膝の疾患
膝の疾患
膝の痛み、膝が曲がらない、膝がガクガクするなどの膝の症状には、半月板の損傷、細菌性のもの、膝の靭帯損傷などさまざまな原因があり、検査により正確な診断を行うことが大切です。当院では、症状や疾患に合わせて、痛みを軽減する治療を中心に行い、手術やより詳しい検査が必要な方には、適切な医療機関へのご紹介と、術前および術後のリハビリをサポートいたします。

膝の痛みに関する主な疾患

変形性膝関節症(O脚、X脚)

どんな病気?

膝が痛い方で最も多い病気です。膝の軽い怪我を過去にしたこと(診断のついていない半月板損傷を起こした可能性がある)があったり、特にこれといった理由がなく徐々に半月板が変性(組織が年老いる)してくることで、だんだんとクッションとしての機能が失われて、膝の軟骨が上下で擦れるようになります。一度損傷した軟骨は自然に治ることはなく、そのまますり減って徐々に痛みが強くなり、だんだんと歩行もしづらくなっていきます。良くなったり悪くなったりを繰り返しながらゆっくりと進行していきます。初期は、立ち上がったときや歩きはじめの痛みで、しばらく歩いていると痛みが軽くなるといった症状を認めます。人は歩かずに生活をすることはなかなかできません。膝の痛みがあれば、まずどの程度傷んでいるのかをレントゲン画像で確認したり、診察をさせてください。

治療法は?

治療は、段階別にさまざまです。初期は、膝周りの筋力を鍛えるリハビリをしたり、すり減った側に体重がかかりにくくする足底板(当院では特殊な入谷式足底板というものも作成しております)を作って使用したり、痛み止めや湿布で観察をします。少し進行すると、膝関節内にヒアルロン酸の注射をすることもあります。最近では、O脚の方に限定されますが、膝の内側の痛みがある靭帯周辺にステロイド注射を行う治療も行っています。またかなり進行しており、手術適応かなと思われる状態でも、まだ手術はしたくないといった方には、ラジオ波治療(Coolief: 膝関節内の痛みをきたす感覚神経を焼灼して痛みを軽減する治療)やPRP療法(多血小板血漿:ご自身の血液を加工して再生を促す成分だけを抽出したもの)などの選択肢があります。 こちらは当院ではまだ行えませんが、今後準備ができ次第開始する予定です。そして最後が手術となります。
手術は大きく分けて2種類です。一つはご自身の骨(脛骨近位部)を骨切りして、体重のかかる向きを変えてあげる治療法です。こちらは、年齢が比較的若い方や、高齢ではあるが活発にスポーツをされる方、骨粗鬆症のない方、まだ正座が可能な可動域のいい方などにおすすめする治療となります。手術は非常に痛いですが、骨癒合が得られると非常に痛みが軽くなり、良好な経過を示します。もう一つは、有名な人工関節です。人工関節は、すり減った軟骨に相当する厚み分だけ骨を薄く切って、大腿骨側と脛骨側にインプラントを被せることで痛い部位の接触をなくし痛みを取る治療法です。人工関節では、曲がった脚をまっすぐすることで見た目が改善し、荷重線もしっかりと膝の真ん中を通るようになるので非常に歩きやすくなります。欠点としては、正座ができなくなります。また可動域が安定するまでに時間を要します。
当院では、さまざまなステージにおける治療を丁寧にご説明させていただきます。リハビリでは、理学療法士による巧みな施術や、自宅でのトレーニング法のご説明、当院ならではの入谷式足底板の作成などを行っています。当院でできない手術をおすすめする場合は、専門病院へのご紹介も行わせていただきます。そして手術後のリハビリももちろんお受けいたします。どの段階でも膝が痛いという方のお力になれればと思っています。まずはどうしようと迷われたら怖いかもしれませんが一度ご相談いただければと思います。いきなり手術しかありませんなどと言うことはありませんのでご安心ください。

半月板損傷

どんな病気?

膝のクッションの機能を担う組織である半月板の損傷です。半月板は、歩いたり走ったりジャンプしたり、いろいろな動作で大腿骨側と脛骨側の軟骨が直接ぶつからないように保護してくれています。若い方であれば、激しいスポーツやウェイトトレーニング、そして外傷で痛める事があります。年配の方では、先に述べた受傷原因以外に、正座や階段を降りる、急に走るなど別の理由で損傷することもあります。半月板はたくさんの切れ方が存在します。中でも切れた半月板の一部が関節内をふらふらと浮遊して大腿骨と脛骨の間に挟まってしまう”ロッキング症状”、これは激痛で、一度切れ目に大腿骨がはまり込むと自分では元に戻せず救急疾患となる事があります。あとは歩行時に挟まることが度々あって痛いというフラップ状断裂や、膝の後ろがブツンと鳴り凄まじい痛みと膝の腫れで一時的に歩行ができなくなる内側半月板後根断裂などが痛い代表例です。しかし他の多くの切れ方では、痛くないこともあります。程度が軽いと、徐々にクッション機能が弱まって軟骨がぶつかり合ってすり減ることで変形性膝関節症として痛みをきたし、その時受けた検査で、すでに時間の経った半月板損傷を認めていますとご説明することもあります。症状のバリエーションがとても豊富ですので、ここにすべてを記載してご説明することが難しいと感じています。もし膝の痛みがあれば、まず診せていただきたいです。半月板以外の症状かもしれませんが、お話を聞いたり診察をしていくことで、お困りの症状の解決に向かうお手伝いができると考えております。

治療法は?

半月板は皮膚に近い側の1/3程度だけが血流をたくさん持ち、それ以外の膝中心に近い2/3は血流が乏しい組織です。そのため、切れたけどしばらく安静にしていたらくっつく、ということはあまり多くありません。そこで、診察の結果で半月板損傷が疑わしければ、まずはエコーやMRI(委託)で検査をしていただきます。その結果で、様子を見てもいいもの、部分切除をすればスッキリ解決するもの、縫合が必要なもの、脛骨の高位脛骨骨切り術や人工関節が適応になるものなどを、状態を説明しながらご提案させていただきます。今は手術は受けたくないなどのお気持ちも理解いたしますが、半月板は縫合が必要であるような症例はできるだけ早く行うことをお勧めします。血流が乏しく自力で治癒する可能性は低く、そのままにしておくとクッション機能が低下し変形性膝関節症に移行してしまうからです。この判断に関しては、きちんと状態をご説明した上で、納得がいく状態で治療に進んでいけるように努めたいと考えております。

偽痛風発作

どんな病気?

高齢で膝の変形や半月板の変性を伴っている方に突然発症する、膝の激痛を認める疾患です。その痛みは激烈で多少の動きでも悲鳴を上げるほどです。原因は、変形や変性がある膝関節内に人体が石灰化を形成し、その石灰化に対して自己免疫反応を起こすことで炎症が発生し、膝関節液が急激に増加し痛みをきたします。夏場や肺炎などの病気をきっかけに脱水となることで症状が発生しやすくなります。

治療法は?

絶対的な治療はありませんが、ロキソニンなどNSAIDs系のお薬が著効します。しかし、あまりにも強い疼痛の時は効果が得られるまでの時間すら耐え難いこともあります。その場合は膝関節内穿刺を行い、炎症を起こした関節液を吸い出した後に、数回生理食塩水で関節内の洗浄を行います。最後に局所麻酔を入れると一時的な痛みの緩和が得られます。根本的には、数日から1週間程度の時間が経てば自然軽快します。その間の除痛に関しては、個々の痛みの程度に合わせて適切な治療をご提案できればと考えております。

化膿性膝関節炎

どんな病気?

原因は様々ですが、膝関節内に細菌が入り込み感染を起こした状態です。膝関節内は血流に乏しいため、一度感染が起きると菌を自己免疫で倒すことができず繁殖しやすい傾向にあります。痛みはまちまちですが、非常に強い安静時痛をきたすことがあります。また感染によって骨が溶けることもあり、その場合は歩行困難となります。診断は、関節穿刺で混濁した関節液を認め、かつ培養検査で菌が検出されると確定します。

治療法は?

できるだけ早く診断をつけて、抗生剤を開始します。抗生剤は内服では充分な効果が得られにくいため、点滴での投与が望ましいです。また関節鏡下で膝関節内のお掃除を徹底的に行うことが薦められます。それだけでは持続的な治療効果が得られにくいため、最近ではCLAP療法(持続的局所高濃度抗生剤治療)を行うこともあります。人工関節が入っている膝に同様の感染が生じた場合は、インプラントの抜去をした上で、同様の治療が必要になるかもしれません。中途半端な治療は回復を遅らせることになるため、最初にできるだけ徹底した治療を行うことが望ましいと考えています。どうしても高度な治療を要することが想定されるため、2次もしくは3次病院にご紹介をさせていただくことになると思います。

前十字靭帯損傷

どんな病気?

スポーツでジャンプ後に着地をしたり、膝が内側に入った状態でタックルをされた時に、踏ん張りを超えて限界点を越えると前十字靭帯を損傷します。前十字靭帯は非常に強力な靭帯のため、膝がガクガクとなり前への不安定性を認めるようになるため、そのままではスポーツへの復帰が困難となります。最初に怪我した時に、膝関節内に急激に血が溜まることで関節内の圧が上がり、強い痛みを認めます。しかし、この痛みは膝関節内の血を抜くと一気に軽くなります。その後は、膝を固定するシーネもしくはサポーターで生活をしてもらい、準備ができ次第Donjoy装具(膝の前方不安定性を制御する装具)を着用し、可動域訓練と筋力トレーニングを行なってもらいます。痛みが軽くなれば、しっかりと脚をついて歩行可能です。

治療法は?

不全断裂や今後スポーツに復帰しない方は、膝周りの筋力トレーニングを行っていただき、前十字靭帯の働きを代償できるようであればそのまま日常生活に復帰をしてもらうこともあります。ただし、診察所見で膝の高度な前方不安定性を認めたり、スポーツへの復帰を求める方には、怪我から2ヶ月ごろを目処に手術をお勧めします。手術は関節鏡でご自身の腱を用いて行います。腱は、国内ではハムストリングを用いた本来の靭帯走行と同じ二重束再建法と、膝蓋骨と膝蓋腱の一部を用いた再建法があります。どちらの手術法にもメリットとデメリットが存在し、その選択に関しては体格や膝をつく動作を行うかどうかや膝の伸ばす方と曲げる方のどちらの筋力低下を嫌うかなどが影響してきます。スポーツへの復帰までには最低でも9ヶ月程度は要するものと言われております。当院では、適切な治療を行うことができる施設へのご紹介と、術前及び術後のリハビリでの介助をさせていただければと思っております。

後十字靭帯損傷

どんな病気?

高所から膝での着地や交通事故で膝を強打したり、膝を曲げた状態で膝を強く打つことで発生します。前十字靭帯損傷と同様に、怪我した直後は急激に膝関節内に血が溜まるためとても強い痛みを認めます。しかし、診察時に膝の血を抜くと痛みが軽くなることがほとんどです。診断がレントゲンで得られることはないため、受傷機転と所見などから総合して疑い、MRIを撮影して確定診断に至ります。

治療法は?

後十字靭帯損傷は、損傷後少し経過すると痛みがなくなります。そのため、日常生活を送るだけならあまり大きな問題になりません。ただし、しゃがんだ時の膝後方への不安定感が強い方や、その後スポーツや建設現場などへ戻る必要性がある方においては、まず3ヶ月間程度の徹底した膝前面の筋力訓練を行なってもらい、その上でどうしても違和感が消えない方には手術をお勧めすることになります。筋力で膝の安定性が改善しない場合は、そのままにしておくと半月板などのクッションを痛めて、連鎖的に変形性膝関節症に移行し、元通りに戻ることがない膝を完成させてしまう可能性があります。手術は先の前十字靭帯の再建術と同様で、二重束再建法と、膝蓋骨と膝蓋腱の一部を用いた再建法があります。どちらの手術法にもメリットとデメリットが存在しますので、その選択に関しては体格やスポーツ、仕事内容で検討することになると思われます。手術を行なった場合、スポーツへの復帰には最低でも9ヶ月程度は要すると言われております。日常生活や仕事にはもっと早期に戻ることができると考えます。当院では、適切な治療を行うことができる施設へのご紹介と、術前及び術後のリハビリでの介助をさせていただければと思っております。

内側側副靭帯損傷/外側側副靭帯損傷

どんな病気?

内側側副靱帯損傷は、膝より下の脚を強く外側に捻った時に発生します。内側に強くひねりを強制された時に発生しそうですが、単独損傷はほとんどありません。そして起きた単独損傷のほとんどは保存療法で難なく軽快します。外側側副靭帯損傷が起きたときは、前後十字靭帯損傷や大腿骨・脛骨の関節面の骨折など、より重篤な病態を合併していることが多く、中には動脈や神経が切れたりしているような複合損傷の形を認めることもあります。そのような場合は救急搬送され緊急処置を行われることになるため、あまり当院で初期の対応をすることはないかもしれません。

治療法は?

当院で対応可能なレベルの内側側副靱帯単独損傷であれば、急性期の膝サポーターでの固定と、急性期を過ぎた後に硬くなった膝の可動域訓練などを行うことで2〜3ヶ月で問題なく日常生活に復帰できます。単独損傷以外の複合損傷に関しては、もし当院で診察や診断をさせていただく機会があればMRI検査をし、一緒に画像を確認しながら必要な治療を検討していければと考えております。手術加療になればきちんと対応可能な病院を紹介をさせていただきます。術前術後のリハビリに関しては当院にお任せいただければと思っております。

膝骨壊死/脆弱性軟骨下骨折

どんな病気?

膝関節内側に認めることが多いですが、急に膝の激痛を認める病気です。ステロイド大量投与療法後に発生する骨壊死のこともあれば、骨粗鬆症をベースとした軽微な外力(階段を降りた衝撃や、段差でつまづくなどの衝撃)で膝関節面の軟骨下骨を微小骨折して発生することもあります。二つの病気は異なるものですが、治療法が酷似しているため一緒に取り扱うことが多いです。普段からO脚で膝の痛みはあったが、なぜか突然激痛になった時などに疑います。レントゲンやエコーで診断がつくことは多いため、まずは受診をしてみてください。

治療法は?

痛みの部位が膝の内側であることが多く、その場合はO脚の治療と同じです。まずは足底板で内側への荷重を外側への荷重にシフトさせます。その上で鎮痛剤や湿布を使用してもらいます。当院では個人の歩行様式を解析した上でより高いオーダーメイド性の入谷式足底板を作成しています。うまく内側への荷重がかからないようにできると、その間に壊死部や軟骨下骨折部が治癒していきます。通常3ヶ月程度の保存加療を試みています。それでも改善がなかったり、痛みのために膝の可動域が低下してリハビリでも可動域改善が得られそうにない時は、少し早めに手術加療をご提案することもあります。手術は主に2通りで、一つは活動性の高い方に提案することが多い骨切り術です。骨切り術は、正式には高位脛骨骨切り術といい、足底板と同じ原理で、痛んでいる内側関節面への荷重を痛んでいない外側荷重面に逃してあげようという治療になります。もう一つは人工関節です。もし外側関節面や膝蓋大腿関節面が痛んでいない方であれば、片面だけ置換する単顆関節置換術を適応します。痛んでいる関節面が人工関節になることで荷重時の疼痛が軽減もしくは消失します。どちらの治療を選択しても術後にある程度の期間リハビリを行う必要があります。手術の必要性がある方には、当院から対応可能な病院をご紹介をさせていただきます。その上で、退院され術後リハビリを行う際にはまた当院をご利用いただければと考えております。

たな障害

どんな病気?

膝関節の膝蓋骨内側よりに滑膜ヒダという組織が存在することがあり、その滑膜ヒダが膝の屈伸動作などで炎症を起こした際に、痛みや引っかかり感を呈する病気のことをたな障害と言います。

治療法は?

基本的にはたな障害を発症した原因となる膝の屈伸動作を制限し、局所の冷却を行うことで、炎症性の痛みを引かせます。その上で、膝前面のストレッチングをしっかりと行い柔軟性を増すことで、次の炎症が起こりにくい体に整えていきます。超音波や衝撃波治療が奏効することもあるので、適宜併用をしていくことができればと思っております。